この記事を書いた人
佐藤 ゆうか / 臨床心理士・ユースカルチャー専門カウンセラー
青年期の心理やファン心理学を専門とし、10代〜20代のクライアントを中心に年間500件以上のカウンセリングを実施。SNSが心に与える影響についても詳しい。
女性誌で「推し活とメンタルヘルス」に関する人気連載を持つ。
あなたへのメッセージ:
「推し」への気持ちは、あなたの人生を豊かにする素晴らしいエネルギーです。一人で抱え込まず、その気持ちの正体を一緒に理解していきましょう。あなたの心が少しでも軽くなるお手伝いができれば嬉しいです。
「推し」への気持ちが大きくなりすぎて、「これって恋なの?」「私だけがおかしいの?」と一人で不安になっていませんか?
でも、安心してください。その気持ちは決して異常なものではなく、多くの人が経験する自然な心の働きです。
この記事は、よくある診断ツールで終わらせません。臨床心理士である私が、あなたの気持ちの正体を「心理学」の視点から優しく解き明かし、その不安を「あなただけじゃない」という安心感に変えるための「心の処方箋」です。
読み終える頃には、ご自身の感情の正体がわかり、明日からもっと楽しく、健やかに「推し活」を続けるためのヒントが手に入ります。
目次
「もしかして私だけ…?」その不安、68%の人が同じ気持ちです
臨床心理士としてカウンセリングをしていると、最もよく受ける質問の一つが「こんなに好きになるなんて、おかしいですか?」というご相談です。
推しへの気持ちが強くなるほど、周りの人との温度差を感じて、「自分だけが特別なのでは」と孤独を感じてしまう方は、実はとても多いのです。
でも、まず知っておいてほしいことがあります。あなたは、決して一人ではありません。
株式会社ジェイアール東日本企画の調査によると、15歳から29歳の女性のうち、実に68.4%に「推し」がいると回答しています。
このデータが示すのは、「推し活」が一部の特別な人たちのものではなく、今の時代のスタンダードな文化であるという事実です。
あなたが抱いているその大きなエネルギーは、多くの人が共有している、ごく自然な気持ちの一部なのです。ですから、まずは「自分だけかも」という不安を手放して、安心して読み進めてくださいね。
その気持ちの正体は「パラソーシャル関係」- 心理学で解き明かすファン心理
では、あなたが抱えている「推しへの特別な気持ち」の正体は一体何なのでしょうか。心理学の視点から、その心のメカニズムを解き明かしていきましょう。
結論から言うと、その感情の多くは「パラソーシャル関係(Parasocial Relationship)」という言葉で説明できます。
パラソーシャル関係とは、テレビやSNSなどを通じて、相手のことを一方的に知ることで、まるで親しい友人や恋人のように感じてしまう心理現象のことです。
直接会ったことがなくても、相手の様々な情報に触れることで、脳は「親密な関係だ」と錯覚することがあります。これは決して異常なことではなく、誰にでも起こりうる自然な心の働きなのです。
このパラソーシャル関係という心理メカニズムが、いわゆる「ガチ恋」や「リアコ」と呼ばれる具体的な感情状態を引き起こす原因となります。
一般的な「ファン心理」の中でも、特に恋愛感情に近いドキドキや切なさを伴うものは「疑似恋愛」と呼ばれますが、パラソーシャル関係は、この疑似恋愛の感情をさらに強める働きをします。
つまり、「推しに本気で恋をしているかも」と感じるあなたの気持ちは、心理学的に見てもごく自然なプロセスだと言えるのです。
あなたのタイプは?ガチ恋度チェックリストと健全な向き合い方
ご自身の気持ちが自然なものであると理解できたところで、次に「今の自分の気持ちの現在地」を客観的に把握してみましょう。
これからご紹介するのは、あなたの気持ちに優劣をつけたり、否定したりするためのものではありません。
あくまで、ご自身の感情のタイプを理解し、これからもっと楽しく「推し活」を続けるためのヒントを見つけるためのチェックリストです。リラックスして答えてみてください。
【推しへの気持ち診断:ガチ恋度チェックリスト】
以下の10個の質問に、「はい」か「いいえ」で答えてみましょう。
- □ 推しのSNSは、投稿後すぐにチェックしてしまう
- □ 推しが異性と親しげにしているのを見ると、胸がザワザワする
- □ 「自分だけが推しの本当の魅力を理解している」と感じることがある
- □ 推しの誕生日や記念日は、自分のことのように盛大にお祝いしたい
- □ 他のファン(同担)の言動が気になったり、嫉妬したりすることがある
- □ ライブやイベントでは、推しに少しでも認知してもらおうと頑張る
- □ 推しに恋人がいるかもしれない、と考えると眠れなくなるほど辛い
- □ 自分の時間やお金の大半を、推しのために使っている
- □ 推しの発言や行動一つで、一日中ハッピーになったり、どん底まで落ち込んだりする
- □ 推しと現実で付き合いたい、と本気で考えたことがある
いかがでしたか?「はい」の数を数えて、ご自身のタイプを確認してみましょう。
▼「はい」が0〜2個だったあなた:【健やか応援タイプ】
あなたは、推しとご自身の生活との間に、とても良いバランスを保てています。
推しの活動を純粋に応援し、そこから元気をもらうことで、ご自身の毎日を豊かにできています。
- アドバイス: その素晴らしいバランス感覚を、ぜひ大切にしてください。これからも、ご自身のペースで、無理なく楽しく推し活を続けていくことで、あなたの人生はさらに彩り豊かなものになるでしょう。
▼「はい」が3〜6個だったあなた:【夢中なファンタイプ】
あなたは今、推し活に夢中になり、毎日がとても充実している時期でしょう。推しの存在が、日々の大きなモチベーションになっているはずです。
その強いエネルギーは素晴らしいものですが、時に気持ちが揺れ動くこともあるかもしれません。
- アドバイス: 推し活への過度な没入は、「推し疲れ」というネガティブな結果を引き起こす可能性があります。 もし少し疲れたなと感じたら、意識的にSNSを見ない時間を作ったり、推し活以外の趣味に没頭する日を作ったりするのがおすすめです。
▼「はい」が7個以上だったあなた:【熱烈なガチ恋タイプ】
あなたは、推しに対して非常に強く、深い愛情を抱いています。その気持ちは「疑似恋愛」の域にあり、毎日が推し中心に回っているかもしれません。その一途な想いは尊いものですが、ご自身の感情に振り回されて、苦しくなってしまう危険性もはらんでいます。
- アドバイス: あなたの気持ちは、決して間違っていません。ただ、その大きな愛情をご自身の負担にしないために、「推しは推し、自分は自分」という境界線を意識することが大切です。推しの幸せを願いつつ、あなた自身の幸せも同じくらい大切にすることを忘れないでください。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: SNSで他のファンと自分を比べるのは、今日からやめてみましょう。
なぜなら、カウンセリングの現場で見る「推し疲れ」の最も大きな原因が、SNSを通じた他者比較だからです。
「自分よりもっとお金を使っている」「自分よりたくさんライブに行っている」といった情報に触れると、無意識に「自分はファン失格だ」と自己嫌悪に陥りがちです。
あなたの応援の形は、あなただけのもので良いのです。
よくあるお悩み相談室(FAQ)
最後に、カウンセリングでよく寄せられる具体的なお悩みについて、Q&A形式でお答えします。
Q. 「同担拒否」で苦しいです。どうすればいいですか?
A. 「同担拒否」は、推しを独占したいという気持ちの表れであり、「ガチ恋」に伴う自然な感情の一つです。
無理に他のファンを好きになる必要はありませんが、SNSなどで攻撃的な発言をしたり、他者のファン活動を否定したりすると、ご自身がもっと苦しくなってしまいます。
まずは、苦手な情報は見ないようにミュート機能を活用するなど、ご自身の心を守る工夫から始めてみましょう。
Q. 推しにお金や時間を使いすぎてしまいます。
A. 「推しのためなら」と頑張れるのは素敵なことですが、ご自身の生活が脅かされるほどになっては本末転倒です。
株式会社ネオマーケティングの調査では、推し活に使う金額は月平均で1万円未満の人が全体の73.8%を占めています。
まずは「月に使える上限金額」をご自身で設定し、その範囲内で楽しむルール作りをおすすめします。お金や時間の量=愛情の大きさ、ではありません。
Q. 推しに恋人ができたら…と考えると、辛くなります。
A. そのお気持ち、痛いほどよく分かります。推しの幸せを願いたい気持ちと、受け入れがたい気持ちの間で、心が引き裂かれそうになりますよね。
その辛い感情は、あなたがそれだけ推しに真剣に向き合ってきた証拠です。無理に平気なふりをする必要はありません。
信頼できる友人に話を聞いてもらったり、少しの間推しから距離を置いたりして、ご自身の心が回復する時間を大切にしてください。
まとめ:その気持ちは、あなたの宝物です
この記事では、あなたの「推し」への気持ちの正体と、その向き合い方について解説してきました。
最後に、もう一度だけお伝えします。あなたの「推し」への強い気持ちは、「パラソーシャル関係」という心理メカニズムによる自然な感情です。決して、あなたがおかしいわけではありません。
大切なのは、ご自身の気持ちのタイプを知り、上手に付き合っていくことです。この記事で紹介したチェックリストやアドバイスが、その一助となれば幸いです。
この気持ちは、あなたの毎日を豊かにしてくれる素晴らしいエネルギーになります。
まずは今日、ここで学んだヒントを一つでも試してみてください。そして、もし周りに同じように悩んでいる友人がいたら、この記事をそっと教えてあげてくださいね。
あなたの「推し活」が、もっと楽しく、あなたらしいものになるよう、心から応援しています。
[参考文献リスト]
- マイナビウーマン. (2022). ガチ恋とは? 意味とガチ恋勢の特徴、注意ポイントも紹介. https://woman.mynavi.jp/article/220913-9/
- Mental Care Journal. (2023). パラソーシャル関係とは?推しとの距離感に悩むあなたへ:心理学が解き明かす“親密錯覚”と上手な向き合い方. note. https://note.com/mentalcare_media/n/n0a9a5a3b3c3d
- 東京都市大学 情報基盤センター. (2023). 学生が「推し」に対して抱く感情と 恋愛観に関する検討. https://www.is.tcu.ac.jp/center/bulletin/pdf/vol14/14-04.pdf
- キクコト byジェイアール東日本企画. (2024). 最新調査で見えた!「推し活マーケティング」の未来. https://www.jeki.co.jp/kikukoto/marketing/760/
- 株式会社ネオマーケティング. (2024). 推し活に関する調査 2024年. https://neo-m.jp/investigation/4203/


